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2020年8月22日 リーグ史上初ノーヒットノーラン 河内山拓樹投手
暑く熱い試合の幕開け
南港中央公園野球場。夏の暑い日差しと蒸し暑さ。時折聞こえる蝉の声。雷予報などもあり、客席はまばら。そんな球場のマウンドに立ったのが、河内山拓樹。
クラブチーム、社会人野球チームを経て、トラベリングチーム・アジアンブリーズに参戦。海外でのプレーが決まっていたが、コロナウィルスの影響でリーグの開催が延期。そのため渡航を断念し、堺シュライクスに所属することになった。
笑顔が印象的な選手だが、マウンドに立つと表情は一変。MAX146キロのストレートとスライダーで凡打の山を築く。ここまでリーグ最多の2Sを挙げている。先発としてはこの日が2試合目の登板だった。
あれ?と思わない間に
初回、打席に入ったのは兵庫ブルーサンダーズの俊足、吉村尚馬。前回8月19日の試合では河内山からヒットを打っているがセンターフライ。続く西優輝もセンターフライ、梶木翔馬はピッチャーゴロに打ち取った。
その裏、堺シュライクスは怒涛の攻撃を見せた。注目の右腕、落合秀市投手を相手に大神康輔が四球を選ぶとすかさず盗塁。試合後大西監督は「しっかり試合に向けて準備した大神のプレーが大きかった」と褒めたプレーだった。
4番の大橋諒介がタイムリー、暴投や山田偉琉のタイムリーで、この回一挙5点を先取した。
2回、4番の蔡鉦宇。ファウルにはなるが鋭い当たりを連発される。3回には濱田勇志に死球を与えるが、続く吉村をしっかりファーストゴロに打ち取ってチェンジ。この段階では「ひとまず1巡目を抑えた」というような感じだった。
4回から5回にかけて、球威が増した。打球が詰まり、引っ張られる打球が極端に減ってきた。さらに三振も増えていった。
5回を終わってノーヒット。「あれ?まだブルサンヒット無いよな…?」という空気はスタンドにはなかった。南港中央公園野球場はヒット、エラーの表示がスコアボードにないからだ。この時点でスタンドの何人かに話を聞いたが、ノーヒット継続に気づいていない人ばかりだった。
6回も抑え、7回には三振と詰まったセカンドゴロ2つ。このあたりから堺の控え投手たちがざわざわし始めた。8回も抑えた。残るは9回のみ。
(8回2死。他の投手陣がそわそわしながらほぼ全員集合。河内山本人は普段通りにキャッチボール)
9回の先頭打者は、兵庫に入団したばかりの嵩原陽捕手。アジアンブリーズでのチームメイトだった。ファウルでカウントを取った後に、空振り三振。続く濱田も見逃し三振。1球1球がストライクゾーンにビシビシ決まり、球威が増しているようにも思えた。
(カメラマン席で待機していた投手陣と安積拓人捕手と球団スタッフ畑さん。ここまで前のめりに試合を見る光景はほとんど見ない)
9回二死。代打に告げられたのは、19日の試合で代打で2点タイムリーを放っている渡邉優瑠。最後に投げたボールは河内山本人が一番こだわっているストレートだった。球審の山田幸英が胸の前で手を引いた。三者連続三振でこの試合を締めた。結局出塁を許したのは3回の死球のみ。リーグ史上初のノーヒットノーラン達成だった。
(9回1死から急遽作られたというノーヒットノーラン達成の球場ビジョン)
本人の振り返り
「キャッチボールの時に掴んだ感覚があって、4回ぐらいからそれがハマってきて、だんだん相手打者を刺せるようになってきたので、いいボールになってきたなと感じました」
河内山本人は3回まではあまりいい感覚はなく、だんだん良くなってきたというようだった。
「後ろにもいいピッチャーがいっぱいいるので、初回から全力でいけますし、守備のレベルも高いので、大胆に行けたのがいい結果につながったと思います」
この試合、鶴巻璃士がファウルフライを好捕したり、ボテボテのセカンドゴロを大橋諒介がうまく捌いたりするなど、守備にもいいシーンが見られた。
「目先の試合の結果ではなく、長い目で見て、トータルで見て成長できるように取り組んでいるので、それが(ノーヒットノーランという)いい形で出たのかなと思います」と振り返った。
(キャッチャーの山田捕手と。ちなみにボールを持っているが、山田がノーヒットノーランに慣れていなかったため、審判に達成球を渡してしまう。さらに球審の山田審判もノーヒットノーランに気づいておらず、ボールは行方不明に。「多分これ」ということで近くから持ってきたボール)
必然のノーヒットノーラン
試合後、首脳陣から、口を揃えて出てきた話がある。
「河内山は日々の練習の取り組み方が素晴らしい」
「一人でも黙々と自分のやるべきことをしっかりやっている。それが出たんだろうなと思う」とは夏凪球団代表。「普段からの姿勢、練習に取り組む姿勢が、全然他とは違う。それが素晴らしい」と称えた。
大西宏明監督は 「もちろんノーヒットノーラン自体はすごいことだけれど、そんなにビックリはしないかもしれない。ピッチング云々というより日々からの取り組みが素晴らしいし、彼の努力の賜物。偶然じゃなくて必然のノーヒットノーランかな」と振り返った。
投手をまとめる藤江均コーチは「偶然ではできない。日々見ていてもしっかりしている。普段の考え方や練習にも『こういう風になりたい、こんなボールを投げたい』という一つ一つ意図を感じる。その積み重ねの結果のノーヒットノーランですね」と、うれしそうに語った。
その取り組み方については大西監督が試合後のミーティングで他の選手すべてに伝えたことがある。
「河内山は自分のやるべきことも、足らないことも分かっているし、いいところも分かっている。それを補ったり高めたりする練習ができている。独立リーグとなると少し能力的に足りない選手が多い中で、人に流されず、自分の事をやる。それが明確に見えている」
(試合後のミーティング)
そしてこのノーヒットノーランで、もう一つ大事なことがあった。この試合、登板する予定の投手が他にいたのだ。大西監督と藤江コーチはこう振り返った。
「プランとして片岡(篤志)を投げさせようとしたけれど、藤江と6、7、8回を(河内山が)抑えたらどうする?って話をしていて」(大西監督)
「独立リーグって公式戦は大事だけれども、育成の場でもあるなとは思っていて。結果に関わらず片岡を投げさせようと思ったけれど、自分も投手出身だけど、(ノーヒットノーランは)なかなか挑戦する機会もなかったし、回を追うごとにやらせてあげようと思ってきた」(藤江コーチ)
もちろんこれが河内山でなければひょっとしたら別の結果になっていたかもしれない。藤江コーチはこう付け加えた。
「ノーヒットノーランがゴールではないということを河内山はわかっているし、この結果の中でも反省点は持っていると思う。投げられなかった投手は悔しさを持ってほしい。チームとしては喜ぶべきことだけれども、自分のいるべきマウンドに上がることができないのだから。ただ喜んでいるようじゃプレイヤーとしてはそこで終わってしまう」
この日、スカウトがいる中で、登板に備えていた片岡は河内山に「人のアピールの機会をどうしてくれるんですか」と笑顔交じりで話していた。悔しさ半分、チームとしてのうれしさ半分のようだった。
(試合後の練習中に豪雨が降り、登板できなかった悲しみを表す片岡投手(右))
リリーフエースの河村将督は「チームとしてはうれしいですよ。でもやっぱり試合数がコロナで少なくなった中で、自分の登板機会がなくなったのは悔しいですね」と話した。
そして、近々先発の予定がある糟谷颯は「河内山さんがノーノ―なら、俺は完全試合やってやります!」と意気込んでいた。
野手も刺激を受けていた。大橋はこの試合、1安打1打点「しか」打てなかったことに意気消沈し、試合後の練習では立てなくなるぐらいの打ち込みを行っていた。
(足の自由が利かないのか、匍匐前進でボールを拾っていた大橋)
そのほかの選手も、課題を見つめ、レベルアップをしようと短い時間ではあったが投げ込み、打ち込み、ノックなどを行っていた。
河内山拓樹という男
7月25日、入団後初セーブを挙げた際にこう言っていた。
「ストレートをよくしたいと思っていて、150キロを投げられるようになりたい。NPBに行ける行けないとかではなく、成長したい」
球速にこだわり、もちろんそれ以外の要素もあるが、目先ではなく、長いスパンで自分を成長させたいと思いながら取り組んでいる。一方で藤江コーチが「何も言わなくてもしっかりやってくれる」という通り、練習では糟谷や関口聡など、河内山を慕って行動を共にする選手が増えてきている。
堺に16歳の佐々木裕也投手が入団した時には、「河内山をしっかり見ておけ」というほど、藤江コーチの信頼も厚い。
ノーヒットノーランについて振り返った後、河内山はこう言った。
「いい状態に、いいボールを投げられるようになってきていると思うので、この調子を継続できるよう、また明日から練習を頑張ります」
そう言い終わった後、着替えてすぐにグラウンドに飛び出し、ピッチングフォームの確認と、壁に向けてボールを投げ始めた。1球1球丁寧に、掴んだ感覚を忘れないように。
(試合後の練習で投げる河内山)
「今日何キロ出てました?」帰る前に聞かれた。MAX143キロだったことを伝えると、「まだまだだなぁ…」と言いながら苦笑いした。25歳。まだ成長途中だ。練習も、試合での経験も、まだまだ取り込んで、河内山は進化していく。
「審判も、独立リーグで夢を見る」さわかみ関西独立リーグ審判長、竹本 裕一
現在さわかみ関西独立リーグ(以下カンドク)で審判長を務めている竹本裕一(たけもとひろかず)さん。カンドクで二人制審判、ピッチクロックの導入を提言し実現しました。どうして二人制審判に注力するのか、賛否あるピッチクロックの導入の理由とは?竹本審判長の考えを聞きました。
体系的な学びを求めてアメリカへ
メジャーリーグアンパイア クルーチーフのTed Barrettさんと
高校の教師をしている竹本さん。40歳をくらいまで、卒業生たちと野球チームを作って一緒にプレイをしていました。
「審判を始めたきっかけは、大会の時に審判の人数が足りなかったから。だから、審判になりたいと思って始めたんではないんですよね。やっていくうちに、審判についてしっかりと学びたいと思いました。」
「でも審判についてきちんと教えてくれるところが日本にはなかった。年に2、3回、高野連などで講習会がありましたが、体系的に教えてくれるところはありませんでした。ネットなど色々調べた結果、アメリカのジム・エバンス審判学校に行きつきました。」
(photoAC)
竹本さんは普通の審判になりたくて、フロリダのジム・エバンス審判学校の7日間のショートコースの門をたたきました。それがあまりに面白くて、二年連続でフロリダへ。さらに体系的な審判システムを追究するため、3度目は5週間のプロコースに入学しました。ジムの、合理的ですべてに理由を求める考え方に魅力を感じたと言います。
「日本は『理屈よりも見て覚える、経験で学ぶ』。それに比べてアメリカの教え方はとても合理的で、すべてに理由がありました。そして結果より過程を重視した。過程が正しければ、結果はついてくるという考え方でした。」
「たとえば、判定の練習では、アウト・セーフのジャッジが間違っていても何も言われないんですよ。インストラクターは結果に興味がないから。それよりも、プレイを見るための動き、ステップやターン、距離や角度など……その過程を大切にしています。これは、当時新鮮な感覚でした。」
アメリカで深まった二人制への思い
塩崎育成審判員へアドバイスをする竹本さん
野球の試合に審判が何人いるかと聞かれたら、「4人」と答える人がほとんどではないでしょうか。日本の基本は四人制だからです。しかし、実は審判の発展史をみると、審判はもともとひとりからスタートしました。野球というゲームが発達とともに、審判の数も増えていきました。
野球は、囲いのある競技場で、監督が指揮する9人のプレーヤーからなる二つのチーム間で、 1人ないし数人の審判員の権限のもとに、本規則に従って行われる競技である
(引用)公認野球規則の1.01
この公認野球規則の冒頭の条文にあるように、野球というスポーツを構成するのは、二つのチームと審判団です。審判団は、サードチームとも呼ばれることもあります。審判は野球をやる上での必要条件ですが、最低ひとりいれば、実は何人でやってもいいというルールなのです。
(photoAC)
そのうえで竹本さんは「大切なことは四人制のシステムが、二人制を基本に、ひとり追加して三人制、さらにもうひとり追加して四人制という手順で構築されているということだ」と言います。どういうことなのでしょうか。
「審判がひとりでやる場合はシステムとは言えないので、審判システムの基本は二人制ということになりますよね。アメリカ的に言うならば、基本の二人制ができなければ、その先の三人制や四人制を正しく理解できないということになるんです。」
「しかし日本に野球が輸入されたのは、一人制と二人制がほぼ同時でした。そして『二人制はよくないから一人制でやろう』ということになったんです。その後、二、三を飛ばして、一挙に四人制になってしまった。そんな風にはじまった日本の四人制は、世界標準ではなく、ガラパゴス的に進化をするんです。」
「私は四人制を美学のシステムと思っています。四人制は正確に機能すると大変美しいシステムですが、それは基本の二人制ができてこそ。」
日本では二人制は減数のシステム(四人制からひとり、ふたりと減らした形)となっています。しかし竹本さんは、「美しい四人制の実現のためには、基本である二人制をしっかり機能させることが重要だ」と考えます。そして「その先にある三人制や四人制に発展させていきたい。」と。
「野球の国際化がテーマとなった時期がありましたよね?投球カウントが、ストライクから数えるのではなく、ボールからカウントされるようになった時期です。その頃から日本でも二人制の普及が始まりましたが、『二人制は難しい』という声をよく聞きました。」
「それは減数の感覚で考えているからです。最近ではかなり認知されるようになりましたが、まだ発展途上。私はカンドクを二人制普及のトップランナーにしたいと考えているんです。」
独立リーグは、審判も夢を見る場
3年前、知人から「関西独立リーグで審判員を探している」と聞いた竹本さん。オファーを引き受ける条件として、二人制の導入を提案したそうです。それは、選手たちがNPBを目指す場であるカンドクを、審判にとってもNPBや世界を夢見る場にしたいという考えからでした。
「二人制をベースとしながら三人制、四人制も経験してもらい、世界で活躍できる審判をカンドクで育成したい。カンドクに来て、二人制のシステムを学んだうえで三人制、四人制を経験し、世界を視野に入れ活動してほしいと思います。」
日本人初のAAA審判員、平林岳さんの存在
憧れの存在、平林審判員を追いかけてアリゾナへ行ったことも
二人制審判の学びの場を少しでも増やしたいと考えている竹本さん。NPBでチーフ審判技術指導員を務めている平林さんを講師に迎え、定期講習会を開催しています。平林さんは日本人初の3A審判員。二人制の第一人者です。
「平林さんは僕の憧れの存在ですね。追いかけてアリゾナまで試合を見に行ったぐらいです。その平林さんにお願いして、毎年40人ほどで講習会を開催しています。平林さんから直接二人制を学べる、大変貴重な機会です。この日のために日本各地から受講者がやってくるんですよ。」
京都での審判講習会後に平林さんと
「本格的に二人制を採用しているところがないから、カンドクには他の審判さんがよく見学に来ます。だからカンドクに所属する審判員には『教科書どおりに動いてほしい』と言っています。他の審判さんが学びに来るのに、適当なところを見せられませんからね。」
ピッチクロック導入は、野球発展のため
投手から見えるように設置されるピッチクロック
竹本さんの目標は、カンドクで二人制を根づかせることだけではありません。カンドクが時短に努力している姿を可視化したい—そのために導入したシステムのひとつがピッチクロックでした。
ピッチクロックとは、ピッチャーがバッターにボールを投げるまでに使える時間を制限する仕組みのこと。20秒以内に投球動作に入らなければならないというルールです。日本でも社会人や大学で導入され、二塁審判がストップウオッチで時間を計っています。
これに対しカンドクでは、タイマーを設置して投手から見えるようにしました。ファンや選手からは難色を示されることもありますが、竹本さんは、ピッチクロックの導入は野球の発展に不可欠だと考えます。
「ベースボールが誕生したときのルールは、試合は21点先制。これではあまりにも試合時間が長すぎるため、1857年に9回制になったんです。ほかにも調べてみると、野球の発展史は時間短縮の歴史だということがわかります。だからピッチクロックは、野球の発展に有効なんです。」
(photoAC)
ピッチクロックが導入された理由は、こうした歴史的側面だけではありません。ファン離れを防ぐためでもあります。メジャーリーグでピッチクロックの採用が提案されたのは2015年。メジャーではまだ採用されていませんが、マイナーや独立リーグでは実施されています。
ピッチクロックが提案される一因となったのは、どんどん伸びていく野球の試合時間です。野球好きでも疲れる3時間超の試合は、テレビの視聴率低下、ひいては野球の人気や放映権料の低下につながりました。これは、アメリカだけの問題ではありません。
「オリンピックの正式競技から野球が外れた最大の理由は、試合時間の長さ。カンドクで導入しているピッチクロックは、その解消のためのアイデアのひとつです。近いうちにメジャーでも導入されることでしょう。」
「テレビの野球中継を見ていたら、試合時間が長すぎて一番いいところで放送が切れてしまった……そんな経験をしたことがありますよね?これでは野球を見たいと思えません。サッカーは延長しても2時間ほど。ラグビーは基本的に延長戦がありません。」
「一方の野球は終わる時間が予想できない。帰りの時間が分からないから、試合のあとに飲みに行く約束もしにくいんですよね。これではふだん野球に興味がない人は、テレビ観戦はもちろん、球場に行こうとも思わないでしょう?興行として野球の今後を考えれば、試合時間の短縮はマストだと思うんです。」
ベースボールをリスペクトし、日本の野球を世界標準へ
(photoAC)
日本の野球を世界標準に回帰させるために「野球が生まれたアメリカに敬意を払い、ベースボールという言語で世界中の人々との交流をしたい」と竹本さんは考えます。
「柔道を思い浮かべてください。日本で生まれた日本語のルールを、世界の選手たちがリスペクトをもって学びますよね。野球も同じです。野球を学びたいと思うなら、ベースボールへのリスペクトは当然のこと。日本の野球は確実に、その方向に向かおうとしています。」
「たとえば数年前に始まったNPBのアンパイアスクールでは、二人制を教えています。アマチュアの審判ライセンス制度も、1級をとるためには二人制の理解を問うようになりました。しかしまだまだ導入段階にすぎません。」
「カンドクの実践は一歩前へ出ています。ピッチクロックにしても、失敗や問題点は出てくるでしょう。でも挑戦しなければ何も生み出せません。カンドク審判部は、外国の人から見ても何の違和感もない、普通の審判だと思われる存在になりたいと思っています。」
竹本さんが推奨するピッチクロックと二人制の導入。これはほかと違ったことをして目を引きたいなどといった、短期的なことではありません。ずっと先の野球の未来を見据えて実施されているのです。
「近い将来メジャーリーグやNPBがピッチクロックを導入したとき『カンドクがいち早く実践していた』と誇れるようになっていたらいいなと思う。そのために10年先くらいをイメージして考えています。独立リーグって挑戦の場でしょ?古いことにとらわれるのではなく、実験場としてチャレンジすることも大事だと思います。」
おわりに
(撮影:SAZZY)
審判から見た野球の見どころを聞いたとき、竹本さんは苦笑いしながら次のように答えました。
「審判をやっているときは、野球って面白くないんですよ。どっちが勝つか負けるかも気にならない。『今日どっちが勝ったっけ?』と聞くこともあるぐらいです(笑)。審判というスポーツ、サードチームとしての機能に集中している、そういう感じかな。」
審判として、真摯に野球に向き合う—-竹本審判長の思いとともに、選手だけでなく審判にとっても、カンドクは挑戦の場であり続けます。
文:さかたえみ
2020年8月8日 堺シュライクス、バトスタデーレポート「殻を破れ」
2回目のバトスタデー
バトルスタディーズ(https://morning.kodansha.co.jp/c/battlestudies)というマンガがある。週刊モーニングで連載中。甲子園を目指す「DL学園」の面々が日々奮闘する話だ。
話のモデルとなっているのは、PL学園高校。作者のなきぼくろさんは、PL学園で甲子園に出場していた球児でもあった。堺シュライクスの球団創設時から、チケットにバトルスタディーズの絵が使われるなど、コラボレーションしている。
そんな堺シュライクスとバトルスタディーズが年に一度タッグを組むのが「バトスタデー」だ。
昨年は堺シュライクスがDL学園のユニフォームを身にまとい、試合をした。今年は「アート」をテーマにしてアートフェスティバルが開催された。
野球×アート
「年に一度の大人の遊びみたいな感じですよね」
堺シュライクス・松本祥太郎オーナーはこのバトスタデーについてこう語る。
「アートも独立リーグも何かを表現をしながらやっていくものだし、今年はアートで行こうと。そうして『一緒に遊びませんか』と呼びかけて、アーティストの人たちも集まってくれました」
(バトスタデー限定ユニフォームを着用する松本オーナー)
また、なきぼくろさんは今回のバトスタデーについてこう語った。
「表現というところでは、やっぱり野球もアートも似ているところがあると思っていました。今回のユニフォームをフルーツにしようと思ったのも、バナナにはバナナの、ぶどうにはぶどうの役割があって、それは野球でいうと一番打者は塁に出て、二番で送って、というようなものだと思っています」
今回、選手が着用し、クラウドファンディングのリターンにもなっていたユニフォームには様々な果物が描かれている。野球のユニフォームというにはとても明るい。
「インパクトを残したいというのもあったけれども、コロナで世間的にもどよーんとしているなかで、少しでもカラフルにしたいなと思っていました」
(バトルスタディーズ作者のなきぼくろさん)
球場通路ではアートの体験ブースが設置され、ファンが思い思いに絵をかいたり、作品を作り上げたりしていった。
アートの事業を手掛けるWASABIの平山美聡さんは、イベント後こう振り返った。
「これまでは松本がオーナーの球団ということで、自分が直接交わることは今までなかったんですが、バトスタデーを通じて子供たちがアートに参加して、楽しんでくれたのならよかったと思います。野球とアートの要素は今まであんまり結びつかなかったですが、野球やシュライクスとの相乗効果もあるのかなぁと思いました」
(ブースで子供たちにアートの手ほどきをする平山さん)
そして16時過ぎ、球場前に1台の車が用意された。球団が荷物を運んだりする球団車(実際に試合や移動に使われている)に絵を描こうというイベントだ。
思い思いの絵を描き始める子供や大人。それぞれ笑顔。試合開始までのひと時が、明るく描かれていった。
(「背徳感がすげぇ」と言いながら、筆を執る松本オーナー)
殻を破れ
試合は堺が9-3で06BULLSに勝利。
「まず2年目の独立リーグの球団に、ここまでイベントをやってくださった講談社の皆様に感謝。そしてこの試合に勝てて本当によかった。ファンの人にも喜んでもらえてよかった」と大西宏明監督が振り返った。
「前年の3倍のお客さまが来場されたということで本当にうれしいです。ここまでできたのもスタッフの頑張りのおかげです」と、松本オーナーがスタッフや学生インターンの労をねぎらった。
「去年は本当に宣伝しかしてもらってなくて、逆にこちらがあまり関われてなかったからしっかり関われて、最高でした」となきぼくろさん。イベントの企画や始球式などにも参加。達成感があったという。
そして試合後のファンを待っていたのは、ペイントが完成した球団車だった。
(この車を運転した真路選手は「これなら煽り運転されなさそう」とコメント)
みんなの絵が合わさったシュライクス号。遠くから見ても一目でわかる非常にカラフルな仕上がりとなった。見るといたるところに穴の開いたピーナッツの絵が描かれている。
なきぼくろさんに理由を聞いたところ、「ぜひ太字で書いてください」と言われたので太字で紹介したい。
「シュライクスの活動は、独立リーグの型にはまったところから、そこから飛び出していこう、殻を破ろうとするイメージがあったので、『殻を破っていこう』というテーマでピーナッツを描きました」
バトルスタディーズとのコラボレーションもそうだが、クラウドファンディングを用いたイベント、応援グッズとしてのトングの配布など、型破り、掟破りの活動をしてきた堺シュライクス。
選手たちも、自分の殻を必死に破ろうとしている。うまくなりたい、NPBに行きたい・・・!そんな選手たちの必死の思いが、プレーを通じて「表現」されていく。
(146㎞/hのストレートを投げ込みスタンドを沸かせた片岡篤志投手)
(死球を尻に受けてこの表情・大神康輔選手)
(生還してこの表情・今井寿希也選手)
(バット投げも美しい・4安打5打点を記録した大橋諒介選手)
堺シュライクスはこれで8勝1敗。首位独走中だ。他の3球団も黙って見ているわけにはいかないだろう。殻を破り、堺を食い止めるチームは、どこだ。
おまけ
この試合も堺シュライクスマスコットのライパチが来場し、7回裏に堺っ子体操を踊った。
スタンドからは「過去最高の堺っ子体操の出来」との声が上がった。
「この状況でもたくさんの人に応援してもらえてうれしいパチ」とファンの方への感謝を述べたが、どこか浮かない表情をしていた。
「ユニフォーム、みんなと同じのを着れなかったパチ。サイズがなかったパチ…頑張ってダイエットしてユニフォームを着れるようにするパチ!」
ライパチも試合を彩る「アート」の一つだ。がんばれ、ライパチ。
(文・写真:SAZZY)
2020年7月15日和歌山ファイティングバーズホーム開幕戦
2020年7月15日和歌山ファイティングバーズホーム開幕戦
2020年7月15日。この日をどれほど待ちわびただろうか。新型コロナウイルスと雨の影響で、延びに延びたホーム開幕戦。和歌山ファイティングバーズの試合を、ようやく和歌山で観ることができる—。
選手や監督コーチ、ファンの方や関係者、すべての人が胸を高鳴らせたこの日の様子をレポートする。
「やっと試合ができます!」
(撮影:SAZZY)
6月25日以降試合ができていない選手たちは、雨で思うように練習ができなかったこと、試合勘が鈍っていることなどから「正直、準備が万全とは言えない」と不安を吐露する場面もあった。
それでも試合前から川原監督の顔は笑っていた。「ようやくだよ!」と言って選手たちのウォーミングアップの様子をじっと見つめていた。
和歌山ファイティングバーズのキャプテン、西河洋樹捕手も笑顔で言った。
「雨が続いたので、練習は(室内ばかりで)十分にできたとは言えません。直前の試合中止も多く、モチベーション管理も難しかったです。
でも、堺シュライクスの連勝を止めるために、今日はここに立っています。このままじゃ、面白くないでしょう?」
地域が応援してくれる
「地域が応援してくれる」この一体感が、和歌山ファイティンバーズの醍醐味だ。田所洋二球団代表をはじめ、監督、コーチ、選手に話を聞くと、必ず地域の方々への感謝の言葉が一番に出る。
そのひとつとしてこの日お目見えしたのが、「チキンgaカツ」。和歌山ファイティングバーズを応援して販売される、期間限定ランチボックスだ。上富田スポーツセンター内にある「ベイベリーカフェ」で15~26日に販売される。
(撮影:SAZZY)
和歌山ファイティングバーズのマスコットキャラクター、鳥和歌丸をチキンに見立てたお弁当とドリンクのセット。タルタルソースのかかったサクサクのチキンカツはボリューム満点で一食の価値あり。店内で飲食できるほか持ち帰りもできるので、スタンドで食べるのもいい。
新型コロナウイルスの影響でリーグの開幕が遅れる中、地元の農家さんは選手たちを支えてくれた。開幕してからもこうして応援してくれている。選手たちのやる気は十分だ。
和歌山ファイティングバーズが堺シュライクスの連勝を止める
試合は和歌山ナインの勢いが勝った。初回に堺シュライクスが先制するも、すぐに逆転。
(撮影:SAZZY)
3回には4番・甘露寺仁房がホームランを放った。
その後も小刻みに得点を重ね、7対4。
和歌山ファイティングバーズがホーム初戦で勝ち星を手にした。
主砲とエースが活躍
(撮影:SAZZY)
「地域の方々が応援してくれていたので、ホーム初試合で頑張っている姿を見せることができてよかった」と試合後に話したのは、3回に2点本塁打を左越に放った甘露寺選手。
昨年はホームラン王にも輝いた。今季も引き続きタイトルを狙っていく。その底知れぬパワーで和歌山を沸かせてほしい。
(撮影:SAZZY)
先発の岡田海投手は中20日と調整が難しい中、8回4失点で勝利投手となった。
「勝てたのはよかったですが、内容はよくなかった。前回(6月25日)が8四球で今日も四球が多かった(4四球)。初回もコントロールが定まらなかった」と反省のコメント。
「今年の目標は、防御率のタイトルを獲りたいです!」と力強く宣言した。
合流した頼もしい新戦力
(撮影:SAZZY)
和歌山には新戦力が合流した。昨年まで堺シュライクスに所属していた松本聡選手だ。
昨年は堺シュライクスで5番打者として打率.329を記録した巧打者だ。堺シュライクスを退団したのち、ワールドトライアウトに出場するなどしていたが、新型コロナウイルスの影響により、所属先が決まらない状態が続いていた。
(撮影:SAZZY)
「ずっとプレーをする準備はしていたんですが、コロナの影響を思いっきり受けました。地元の東京ではウーバーイーツの配達のバイトをしていました。その間もトレーニングはしていました。そんな中、大前(拓也)さんを通じて川原監督に声をかけていただき、チャンスをもらうことができました。常に全力プレーで、必ず優勝します!」と宣言した。
そして次を見据える
(撮影:SAZZY)
試合後、和歌山ファイティングバーズの選手たちは思い思いに練習を始めた。杉本大樹投手はブルペンに入り、西河洋樹捕手相手に投げ込みを行った。
(ハッピーセットコンビこと西河洋樹捕手と杉本大樹投手。撮影:SAZZY)
雨でなかなか屋外練習ができず、遠投などもできなかったという杉本。試合間隔も空いたためか、ブルペンでは生島大輔選手が打席に立ち、実戦さながらの調整を行っていた。
地域のためにという旗印を立てた和歌山ファイティングバーズが、優勝を目指し、再スタートを切る。次戦が楽しみだ。
さわかみ関西独立リーグ兵庫ブルーサンダーズ 蔡鉦宇 (サイセイウ)【sideP】
蔡鉦宇 (サイセイウ)
birthday:1996.2.20
blood type:AB
height:175cm
weight:76kg
foot size:28cm
favorite color:ピンク
favorite animal:犬
nickname :特になし
dobutsu_uranai:オオカミ。誠実で律儀な超変わり者。
【1】好きなスポーツメーカー
高校のころ、SSKの道具提供を受けていましたので、今もバットと、バッティンググローブとスパイクはSSKです。
【2】仲のいい選手
小山(一樹)と(濱田)勇志ですね。二人ともとてもいい人で野球ではアドバイスをしあう仲ですし、ご飯も大体この3人で行っています。仲が悪いっていう選手はいないです。
(小山一樹捕手 撮影:SAZZY)
(濱田勇志選手 撮影:SAZZY)
【3】休日の過ごし方
ほとんど外には出ないですね。試合の前の日は、体をほぐす意味合いもあって温泉に入りに行きますね。今よく行っているところは「北神戸ぽかぽか温泉」ってところですね。さっき(6月18日)も行ってきました。
年に1回ぐらい青森に行きます。台湾の知り合いの方がいて、その人に会いに行きます。
(青森で撮影。場所はあんまり覚えていないとのこと)
【4】地元について
台湾の新北市です。台北なのでけっこう北の方ですね。
パイナップルケーキが有名です。ケーキの中にパイナップルが入ってます。僕は甘いものは苦手なんであんまり食べないです。ジュースとかも飲まないですね。そこは体に気を使っています。
【5】好きな食べ物
ラーメンがめっちゃ好きです。三田に六寶(むほう)っていうとんこつ系のラーメン屋さんがあるんですが、そこのラーメンは週4で食べに行きます。めっちゃ好きなんですよ・・・…。
メニューにあるものは全部食べたんですが、特につけ麺が好きです。最後にスープにご飯を入れて食べるんですけど、これがすごくおいしいです。
お店によく行くせいか、お店の人にも覚えられてて、勝手に注文を入れられてしまう感じですね。店に入った瞬間「いつものでいいよね?」って。味玉をサービスで5個ぐらいつけてくれます。
【6】好きな言葉
努力・一生懸命・人間性です。高校時代に教えられた言葉です。「普段の行動が君の人間性に出てくる」と教えられました。普段から見られていると意識して頑張っていきたいです。
【取材後記】
野球については自分の事とチームの事をしっかり考える、一プレイヤーにとどまらない視点を持った素晴らしい方だなと思いました。
ラーメンについてはとても熱く語っていただきました。温泉もいいなぁ。キッピースタジアムで試合を見るときは、ぜひ両方行ってみたいなと思います。
さわかみ関西独立リーグ 兵庫ブルーサンダーズ 蔡鉦宇(サイセイウ)【side B】
6月13日に開幕した、さわかみ関西独立リーグ。
2カ月遅れの開幕。オンライン取材で今、過去、そして今後のことを聞いてみました。
第8回は、兵庫ブルーサンダーズの副キャプテン、蔡(サイ)内野手をピックアップ!
憧れを持って
台湾では日本の高校野球がテレビ中継される。それを見て育った蔡鉦宇 。「チャレンジしてみたい。レベルの高いところで野球をしてみたい―」甲子園、そして日本のプロ野球への憧れを胸に来日したのが2012年。
言葉がわからない、上下関係が厳しい、チームメイトとコミュニケーションが取れない…そんな逆境もあった。
その年に、先輩たちが出場する試合の補助で一度だけ甲子園のグラウンドに降りた。「ここでやってやろう」と憧れはさらに強くなった。
2014年の3月、蔡のいる八戸学院光星高校は、夢であった甲子園に出場した。
「東北大会でいきなり仙台育英高校と当たって、次も花巻東高校と当たって。大丈夫かなと思っていたんですが優勝できました。甲子園で試合ができると思うと何とも言えませんでした」
今年、来日から9年目となる。NPBへの憧れを今も持ち続け、プレーをしている。
(蔡鉦宇 -サイセイウ-選手 撮影:SAZZY)
副キャプテン
昨シーズン、福島レッドホープスに在籍していた蔡は絶好調だった。8試合で5割近くの打率を記録したが、アクシデントに見舞われた。
「右の足首に死球を受けて骨折したんです」
戦線離脱。日本での生活費用のことなどもあり、台湾に戻り治療とリハビリをすることになった。その後、年末に台湾で行われたU-18の野球大会において転機が待っていた。
「コーチとして台湾チームに帯同していたんですが、その大会に兵庫ブルーサンダーズが出ていました。高校の同級生のお父さんの紹介もあり入団を決めました。環境を変えて野球をしたかったというのがありますね」
チームに合流しすぐ、思いがけないことが待っていた。橋本大祐監督から一本の電話が入った。
「副キャプテンをやってくれないか、ということでした。ビックリしました」
今年の兵庫ブルーサンダーズは若い選手が多い。技術だけではなく経験を伝えてほしいということだった。
「やっぱりまだみんな若くて社会に出ていない選手も多いじゃないですか。自分からチームを引っ張らないといけないと思いますし、これも一つの勉強なのかなと思います」
キャプテンの仲瀬貴啓、同じく副キャプテンの小山一樹とはよくチームの現状を話し合う。
「考えを3人で話し合います。いいところはそのまま継続できればと思うんですけど、悪いところもある。これってどうなんだろうと思ったらすぐに言うようにしていますね。野球はグラウンドに9人いるので、みんなでやるスポーツですし、チームに貢献できるような行動をみんなに伝えていきたいです」
高校時代、「人間性」ということを野球を通して叩き込まれた。一人がよくても、他のみんながよくない。そして普段の行動が野球に表れる。蔡はそれをチームに伝え、橋本監督をサポートしていく。
開幕戦に思ったこと
6月13日、2カ月遅れの開幕の日がやってきた。6番DHで出場した蔡は、4打席に立って1打数0安打3四球だった。
木村豪コーチに『バッティングに集中してほしい』と言われ、DHでのスタメンとなった。
「四球3つというのはヒット3本と同じ価値なので、それはよかったなと思いました」と話したが、やはり気がかりなのはチームの事だ。
「とても悔しかったです。あと1本が出なかった。それに、チャンスで打席が回ってきた若い選手の顔を見ると、やっぱり緊張みたいなものが顔に出ているんですよね。開幕戦だし、それもあったのかなと思います」
今季多くの選手が入れ替わり、平均年齢もぐっと下がった。チームとして成熟するために、自身もチームもレベルアップを果たしていく。
(2020年6月13日 ガッツポーズをする堺・河村将督の後ろで悔しさをにじませる。 撮影:SAZZY)
今季の目標と決意
台湾は球団が少ない※ため、蔡のようにNPBに指名されるため※に留学する選手も多い。もっと上のレベルで、という志は来日した時から変わっていない。
「バッティングはソフトバンクの柳田悠岐さんに憧れます、スイングと飛距離がやっぱり違います。あとは、ロッテの田村龍弘さん、阪神の北條史也さん。私が1年生の時の3年生でした。そしてロッテのチェン・グァンユウさん。1年だけ通っていた台湾の高校の先輩でした」
募る思いもあるが自身のレベルアップも忘れない。
「バッティングには自信はあります。今季は守備もしっかり取り組んでいます。もっとうまくなりたいです」
「チームとしては完全優勝が目標。個人のタイトルで言うと最多安打を取りたいです。そしてNPBにドラフトで指名されたいです」
自分自身の事も、チームの事も考え、「人間性」をさらに高め、蔡はさらなる高みを目指していく。
(2020年6月13日 打席によっては一本足で構える 撮影:SAZZY)
※台湾の球団…2020年より5球団。登録人数も多くはないため、狭き門となっている。
※NPBに指名される…日本のドラフトの制度により海外国籍の選手でも、条件を満たしていればドラフトの対象となる。例は陽岱鋼(北海道日本ハム)、林威助(阪神)、大豊泰昭(中日)、玉木重雄(広島)らがいる。(括弧内は指名球団)
蔡選手の場合は、大学に4年在籍しているため、ドラフトの指名条件に当てはまっている。
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蔡内野手が選ぶ さわかみ関西独立リーグ この選手がすごい!
- 小山一樹(兵庫)・・・肩が強くてバッティングがいい。グラウンドに立つとプレーに集中する
蔡鉦宇 プロフィール
1996年2月20日生まれ 右投げ左打ち
八戸学院光星高―拓殖大―福島レッドホープス―兵庫ブルーサンダーズ
(文・写真 SAZZY)
さわかみ関西独立リーグ兵庫ブルーサンダーズ 小笠原智一【sideP】
小笠原智一(オガサワラトモカズ)
birthday:2000.12.15
blood type:O
height:181cm
weight:75kg
foot size:27.5cm
favorite color:青
favorite animal:特になし
nickname :おが
dobutsu_uranai:黒ヒョウ
【1】好きなスポーツメーカー
兄(小笠原慎之介)がずっとミズノを使っていたので、僕もずっとミズノを使っていました。
(小笠原投手のマイグラブ)
(小笠原投手のスパイク)
【2】私服について
WWE※のアメリカ版のサイトからTシャツを買っています。日本のサイトだとラインナップに欲しいものがあまりないんです。
2002年頃のWWEが好きで、同じTシャツを何枚か買うぐらい好きですね。福島に行ってから買うようになりました。好きなスーパースター※はショーン・マイケルズです。
WWEは好きで、家に2枚DVDがあったんですが、僕が好きな1枚と兄が好きな1枚があったんで、それを交互に見ていた感じですね。
(WWEのTシャツコレクション。ショーン・マイケルズ関連の物が多い)
※WWE・・・アメリカにあるプロレス団体。来日公演を行うほか、日本ではJ SPORTSなどで放送される。中邑真輔など日本人レスラーも多数所属している
※スーパースター・・・WWEに所属するレスラー
【3】休日の過ごし方
ほとんど寝ています。後はWWEのSNSをチェックしたり・・・あんまり出歩いたりもしないです。あと、僕が入寮してから「寮がプロレスっぽくなった」って言われます(笑)
例えばレスラーのモノマネをしたり、肩を叩いただけでオーバーリアクションで苦しんだり・・・
モノマネは長州力のをやったりしてます。
映画も見ますが、WWEにいたザ・ロック※が出ている映画を見ます。(元チームメイト・岩城孝徳さん曰く「ザ・ロックが出ているシーンしか見ない」とも・・・)
※ザ・ロック・・・90年代後半から00年代前半にかけてWWEで活躍。現在はドウェイン・ジョンソンの名前で映画俳優として活躍。代表作に「ワイルドスピード」や「ジュマンジ」など
【4】地元について
神奈川県の藤沢市です。夏になると海の家とかが並びます。友人のお父さんが海の家をやっているので、遊びに行きます。ちなみに僕は泳げません。
(海の家で友人と。ここでもショーン・マイケルズのTシャツを)
【5】好きな食べ物
365日中、360日はカレーパンを食べています。
おすすめのカレーパンは平塚市にある『弦斎カレーパン』ですね。平塚市に祖母の家があるのですが、そこに行ったら絶対食べます。パン生地の中に米が使われていてすごくもっちりしています。
それ以外のお気に入りのカレーパンはセブンイレブンのホットスナックコーナーで販売されているものです。
【6】好きなアイドル
アメフラっシというアイドルが好きです。メンバーが高校時代のトレーナーの妹さんということで知ったんですけど、歌もダンスもできて楽器もできるというところがすごいなと思っています。『Rain Makers!!』という曲が好きです。まだあまり知られていないですが、皆さまぜひアメフラっシをよろしくお願いします!
【取材後記】
野球面では若いながら成熟した考えを持っていた小笠原投手のプライベートの大半がプロレスとアイドルとカレーパンで占められていました。
野球もそうですが、好きなことを話すときに目の輝きが一段と強くなった印象でした。どんなことにも全力投球。小笠原投手を表すのにぴったりだなと思いました。
ブルサンの寮がプロレスっぽくなる・・・ぜひ一度その光景を見てみたいなと思います。
さわかみ関西独立リーグ兵庫ブルーサンダーズ、小笠原智一【side B】
6月13日、さわかみ関西独立リーグ開幕
コロナウィルスによる開幕延期、選手たちは何を思っているのか。
オンライン取材で今、過去、そして今後のことを聞いてみました。
第7回は兵庫ブルーサンダーズの小笠原投手をピックアップ!
開幕投手
オンライン取材を行ったのは6月10日。その3日後、小笠原智一は開幕戦のまっさらなマウンドに上っていた。19歳の右腕は緊張もどこ吹く風。ストレートとカーブを織り交ぜながらテンポよく投げ込み、6回2失点、68球、4奪三振、あとは打たせて取っていった。
「出来は60点ぐらいでしたがストライクゾーンで勝負できたので自信にはなりました」
満足しきっていない点はあるが、大役を任された後のその顔は充実感にあふれていた。
(2020年6月13日、試合後に『あの時俺が打っていれば・・・』と謎の後悔を口にしながらやってきた小笠原 撮影:SAZZY)
兄のボール
兄は甲子園優勝投手、中日ドラゴンズで開幕投手を務めたこともある小笠原慎之介。野球の話はほとんどしないということだが、正月などにキャッチボールをする機会があった。
「軽く投げていてもボールが重いです。ブルサンに来てからキャッチボールを他の人ともやりましたが、ボールが速いと言われている人でも『ただ速いだけ』と感じてしまうぐらいです。カーブも受けてから腕が持っていかれるぐらい落ちていくんで、あのボールはどうにかして投げたいなと思うんですけどね」
そのボールはどうやったら投げられるようになるのか。それに少しずつ近づこうとしている。
クラブチームから
2019年、所属していたクラブチームには関西にゆかりのある人物が在籍していた。監督は吉田篤史※。2017年に和歌山ファイティングバーズの投手コーチを務めた。そして岩城孝徳、金城力樹。BFL時代のリーグを盛り上げ、2018年には和歌山ファイティングバーズを優勝に導いたバッテリーだ。
「金城さんとはよくキャッチボールをしてもらったんですが、体重の移動やリリースの仕方を学びました。キャッチボールをしていて手元でボールが落ちなくなりました。明らかにボールの質が変わったと思います。岩城さんとももずっと野球の話をしていましたね。打者のタイプ別の打ち取り方とか、投球の組み立て方とか、そういったことをよく話していました」
人数も少ないクラブチームにおいて、「自分に謙虚で、雑用なども嫌な顔をせずやってくれた」と岩城は振り返る。練習も土日しかない中、試合や練習で指摘されたことを翌週に見事に修正してくるなど、小笠原は頭角を現していったが、チームは休部することとなる。
「吉田さんに相談したら、このチームを紹介していただきました」
その縁もあり小笠原は関西にやってきた。
(2020年6月13日 好投し出迎えられる小笠原 撮影:SAZZY)
見つけた武器
兵庫に来た小笠原。橋本大祐監督からは、右打者のアウトコースのストレートを評価される一方、フォームを一目見て「軸足に体重が乗っていない」と言われた。それまで模していた中日・藤嶋健人の投球フォームをやめた。投球練習中にもちゃんとしたボールが投げられているかを都度キャッチャーに確認する、その中でいいと思ったものはすぐに実践している。
「いいか悪いかは別として、自分の体がまだ出来上がっていない(成長が止まっていない)ので、以前聞いたことがいつかフィットすることがあると思うんです。今合わなくてもその時に合うように引き出しとして持っておきたいです」
そんな中、クラブチーム時代から取り組んでいたことが結果となって表れた。
「高めのストレートですね。元々ポップフライを打たせようとするピッチングをしていたんですが、実戦で投げているうちにそれが有効だと感じました。」
オープン戦と練習試合で失点をしたのも1試合だけ。そのボールに手ごたえと自信を感じていた。
そしてポップフライを打たせることについては吉田氏の指導が影響していた。
「ゴロを打たせてアウトを取ろうとすると、『取る、投げる、取る』という3つの動作が発生しますが、その分エラーになる可能性も3点発生することになります。でもフライなら取るだけなので、打ち取ってエラーになる確率が一気に低くなります。オープン戦でもストレートがしっかり通用したので、フライを打たせて行きたいと思います」
(2020年6月13日 開幕のマウンドで堂々と投げ込む小笠原 撮影:SAZZY)
今季の目標と決意
開幕投手を経て、次に目指すのは防御率のタイトルだ。
「そのためにもっとストレートを磨きたいですし、変化球でストライクを取れるようになりたいです」
19歳。同世代のスーパースターの活躍には目もくれず、自分の課題と向き合う日々が続く。自分は自分。見据える目標はNPB入りだ。そのために、引き出しの数を少しでも増やしていく。
※吉田篤史氏は2020年から四国IL徳島の監督
小笠原投手が選ぶ さわかみ関西独立リーグ この選手がすごい!
- 小山一樹(兵庫)・・・配球がよく合うので安心感がある。そうするとテンポよく投げられる。
小笠原智一プロフィール
2000年12月15日生まれ 右投げ左打ち
藤沢翔陵高-郡山アスレチックスBC-兵庫ブルーサンダーズ
6月23日06BULLSホーム開幕戦レポートVS堺シュライクス
6月23日06BULLSホーム開幕戦レポートVS堺シュライクス
新型コロナウイルスの影響でリーグの開幕が延期になり、ようやく迎えた6月23日。雲一つない青空の下、花園中央公園野球場で06BULLSホーム開幕戦がおこなわれた。当日の様子をレポートする。
心を砕いたコロナウイルス感染拡大防止策
(受付の様子 感染対策のため、ビニールカーテンを設置)
6月14日に南港でおこなわれた試合と同じく、この日も観客を動員しての試合。球場に足を運んだ人たちの安全を守るため、そして今後も有観客の試合を継続するため、06BULLSの関係者たちは、コロナウイルス感染拡大防止策に心を砕いた。
永峰要一球団代表(06BULLS)は防止策について、次のように語った。
「大阪の方針に従い、準備をしてきました。選手や監督をはじめ球場に入る関係者全員が、練習のときも毎回大阪コロナ追跡システムに登録するなどして、感染予防に対する意識は高かったと思います。球場とも頻繁に話し合いをし、調整を重ねてきました。今日だけでなく今後もお客様に来ていただいて試合を開催するためには、対策を徹底しなければなりません。」
06BULLSが球場でおこなった感染拡大防止策は、以下の通りだ。
・入場者数の制限
・グラウンド外でのマスク着用
・ソーシャルディスタンスの維持
・入場時の検温
・アルコール消毒
・大阪コロナ追跡システムへの登録
試合を支える運営スタッフは「お客様どうしの距離を保てるように席にテープを貼るなど、いろいろ工夫をしました。開幕が遅れてしまった分、選手たちは客様に全力プレーを見せてほしい。わたしたちは頑張る選手たちを、(運営という面で)支えたいと思います」と話した。
グラウンドに出入りするたびマスクを着脱する選手たちをはじめ、首脳陣、選手、スタッフ、試合に関わるすべての人が、感染拡大防止に努めていた。
「お待たせしました」のひとこと
(試合前、気合いを入れる選手たち)
続々と来場するファン。この日の入場者数はおよそ90人だった。
「お客様から、待ちに待ったという感じを受けました。わたし自身も、今季初めて会うファンの方の顔を見て、同じように感じます。」と言う永峰代表。
みんな、花園で06BULLSを見られる日を、遠足を待つ子どものようにわくわくして待っていたのだ。
試合前の村田辰美監督に、ファンの方へのメッセージを聞くと「『お待たせ!』ただ、そのひとことです。本当にお待たせしました。」と答えが返ってきた。
この日の青空にぴったりの、晴れやかな笑顔だった。
「お客さんが見ていてくれることで、選手たちもやりがいを感じているはず。ハッスルする姿、全力疾走する様子をお見せしたい。ふぬけたプレーには遠慮せずヤジをとばしてください!」
「昨年の成績からいくと、こちらに有利。しかし侮らず、勝ちに行きたい」
全力プレー
試合は7-4で堺シュライクスが勝利した。
堺シュライクス先発の吉田亘輝が15安打を浴びつつも、要所を抑え4失点完投。今季2勝目を挙げた。
永峰代表は「あれだけ安打数が多いのに、4点しか取れずに負けたことは、ある意味ブルズらしい試合だったと思います。しかし堺のチーム力の伸びがすごい。日ごろの練習の成果が出ているんだと思います。」と試合を振り返った。
一部、選手のプレーを紹介する。
06BULLS、花岡雄一
(撮影:すだこ)
1回表、堺シュライクスが鶴巻璃士のタイムリーと樋口勇次のホームランなどで、いきなり5点を先制。その後もフォアボールのあとに盗塁を決められ、ノーアウト2塁となった。このピンチを救ったのが、今年キャプテンに就任した花岡雄一だ。
7番バッター大友健史の難しいファーストファウルフライをナイスキャッチ。
8番佐藤将悟の三振の後、9番今井寿希也のファーストゴロを軽快にさばいて、守備で嫌な流れを断ち切った。
「初回に5点取られましたが、(ブルズの打線なら)5点ぐらい逆転できると思っていました。それにはまず、誰かが悪い流れを切らないといけなかった。その役目が自分だっただけです。」とキャプテンは振り返った。
2回以降、先発草間サトルは持ち直し、安定のピッチングを見せる。
06BULLS、出口航平
5回裏、一時は一点差に詰め寄る2試合連続ホームランを放った出口。少し詰まったように見えたが、ファンの声援にも押され、そのまま打球はスタンドに吸い込まれた。
「3回裏の満塁のチャンスで打てなかったので、4番の仕事ができたとは言えませんが、いい感触で打てました。また次につながる一本だと思います。慢心せず、謙虚に、一球一球全力で向かっていきたいです。」
06BULLS、永田雅樹
3回裏に満塁のチャンスで打てなかったことを「チャンスだったのに」と、悔しそうな表情を見せた永田。8回裏、レフト方向にヒットを放ち、全力疾走で二塁に突っ込んだ。
あとが続かず得点にはいたらなかったが、果敢に二塁を狙う姿勢に、観客席から拍手が起こった。
試合後、このプレーを振り返り「足、もつれちゃいました」とはにかんだ。
堺シュライクス、樋口勇次
初回、堺の今季チーム初ホームランを打った樋口。
「ホームランは狙っていたわけではありません。バッティング練習で悪かったので、ただただくらいついていった。入ってよかったです」
ファンへの感謝
「観客の前で野球をする」今まで当たり前だったことが、今では一つの試合が大きな一歩となっている。花岡雄一キャプテンは、自分たちを支えてくれるファンへの感謝をこう語った。
「平日の昼間にもかかわらず、たくさんの人が来てくれてうれしかったです。野球が好きで見に来てくれる人の存在が、本当にありがたいです。初めての人も、リピーターの人も、また来たいと思ってもらえるプレーをします!」
観客席にもっとたくさんの笑顔があふれる日まで。選手たち、関係者たちが一丸となって、一つ一つの試合を作っていく。
(取材、文:さかたえみ)